8.困ったこと/初めての演出

  • 2019.05.19 Sunday
  • 22:12

 サークルで連絡用に部員の名簿を作るという話が持ち上がった。これは、困った。問題は連絡用の電話だ。家にサークルの誰かから、連絡の電話をかけられたら、一発でニセモノとわかってバレてしまう!てのひらを止めようかとも、考えたが…

 

 秘策を思いついた!実家から500mほど離れたところに祖母が一人暮らししている。その家には実家とは違う電話があったので、そこの倉庫部屋に寝袋で寝泊りをすることにした。祖母に、

「僕は学校でイソベ サクジ 赤シャツ ってあだ名をつけられた。もし、電話があって赤シャツとかサクシますか?って聞かれたら僕のことだからね。学校では僕の名前を言っても通じないから絶対言わないで!」 祖母に何度も何度も繰り返し説明して納得してもらった。祖母は「変な子だねぇ。変なあだ名つけられたんだねぇ」と笑って納得してくれた。自分はおばあちゃんっ子だった。

 ボスには「うちへ電話連絡するときは、なるべく赤シャツいる?って聞いて!」と連絡名簿を書いて出すときそう言っておいた。ひとまず、それで危機を脱することになった。


 5月の後半、新入生中心で「お手紙」のリニューアルをすることになった。その時の演出・ブタ監は、上級生の方からなぜか、赤シャツがやってみなさいということになった。

 魚の父ちゃんの一言でも演技が難しいと思っていたのに、また「お手紙」はてのひらの名作なのでおとしめる訳にはいかない!そのブタ監なんて…とてもとても。けれど、人形劇の本質もわからないまま、劇の制作に入っていくことになった。

 事業後の練習、土曜日の午後の練習のとき、ときどき民ちゃんがやってきて、差し入れをしてくれた。民ちゃんはそのとき、4年生で練習には参加しないが、OBのような存在で応援にきてくれる。ばんちゃんもきてくれて、裏方の大道具作りを手伝ってくれた。

 新入生の中に、ママとノンちゃんがいた。ママはスタイルがよく、岐阜出身のスラリとしたモデルのような美人。自分は相手が美しすぎると物怖じをしてしまう。顔がツンとすましているような印象だったので最初とっつきにくいかなと思っていたが、話してみると時折の岐阜弁が面白かった。そのときは、大道具小道具のような仕事をしてもらった。ノンちゃんはおっとりとした色白でくせっ毛がある小柄なかわいい女の子。小道具を準備し、しっかりと補助をしてくれていた。とにかく、大勢の裏方、OB、上級生、いろんな人のおかげで人形劇は創られていく。

 どうせリニューアルするなら、何か面白いことを…と張り切って笑いを多く入れるように改良し、練習を進めて行った。総リハーサルが行われるとき、民ちゃんたちOBの人たちも集まってきて観てくれた。ところどころで笑いが走る。こんなもんかなと思っていたところ、リハが終わった後の感想で、舞台を見ていたボスが突然、ダメ出し!

「面白いんだけれど、なんか違う!お手紙のよさが消えてるよ。これで伝えたいことって何?…笑えるけどなんか違うような気がするんだけど…」

 鋭い!本当は自分でもそう感じていた。どう演出していいかわからないので、安易な受け狙いのリニューアルをしてしまっていた。ギャグを多様したために、本来「お手紙」の持っていた暖かさ、かえる君とがま君の友情を薄れてさせてしまっていたのだ。

 それは、制作途中でもうすうす自分で気がついていた。けれども、作品の本当のよさを引き出させる演出の方法を自分はまだ知らなかった。

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