33.さようなら「てのひら」

  • 2019.06.13 Thursday
  • 11:47

 2月の中頃だったと思う。どこの大学も入学試験のため三学期が終わる時期。てのひらも部員全員集まり一年間の反省会、そして来年度に向けての打合せがあった。

 始まる前に主幹のヨー君にはサークルの会が終わった後、みんなに伝えたいことがあるので話をさせて欲しいと頼んであった。一年の各行事の反省が終り、4月からの来年度に向けての計画そして一年前に行われたと同様に新入生勧誘の計画が打ち合せがなされてた後、部室から外に出て、キャンパスに全員が出て輪を作って円になった。ヨー君が「来期も頑張るぞー!」とシュプレヒコール、全員でガンバルぞー!とシュプレヒコールをした。

 

 その後「赤シャツから何か話があるそうです」とヨー君。

赤シャツ 輪の一番端で赤シャツが話し始めた。

「みんなに謝らなくちゃならないことがあります。すみません。今日でてのひらを辞めることになりました」

 みんなが、ざわつきはじめブッチャーが怒ったような顔をして向かってきた。「えーっ?なんで辞めるんだよーっ!」胸ぐらをつかみかかるような勢いだ。「ごめん。辞めなくちゃならなくなったんだ」

「ずっとみんなをだましてここに来てました。自分は南山生じゃない.........ニセ学生として.........ずっとこのサークルに入れてもらっていたんです。黙っててすみません。本当は教大生で4月からは教育大に戻らなくちゃならなくなったので.........」

 

 みんな信じられないと驚いている。チビ太は唖然として口をあんぐり開けているし、ユキコは黒ぶち眼鏡を落としそうになっている。バケは大きく眼を見開き冗談きついわ嘘でしょーっ?という顔をしてこっちをジーッと見つめている。

 こんなときなんやかんや言ってくるボスやマキコも無言のまま、ヌーボーも相変わらずヌ〜としていてボー然とこちらを見ている。どう話していいか、何を言えばいいのか、どう対処していいのか。説明をしてもこの赤シャツの話すことが本当なのか?この信じられないような事実は、赤シャツがいつもの冗談を言っているだけのように思えていたらしい.........

・・・・しばらくの間、てのひらの輪の中に沈黙が流れた・・・

「今までありがとうございました」そのお礼の言葉でなんとか取り繕ったが、どう説明しても納得してもらえない割りきれない雰囲気がその場をおおった。

 

 その後みんなとどうしたか、どうなったか記憶が定かでない。気がつくと一年前の入学式のとき登った校門までの坂をひとりで下って、ゆっくり歩いていた。悲しく淋しくて心の空洞は大きく大きく広がったが、涙は出なかった。二月の風はまだ冷たく枯葉の舞う中、このときよく口ずさんだ吉田拓郎の歌を心に響かせながら、二度と来ることのない道をバス停に向かって歩いて去っていった。

 

悲ーしぃーだろう?みんなー同じさーっ、おんなじ夜を迎えてる〜

風の中を 一人歩けば 枯葉が肩で ささやくよー

どうしてだろう、このむなしさは、誰かに会えば鎮まるかい〜?

こうして、空を見上げているぅ~と、生きてることさえ空しいよ〜っ

これが、自由ということかしら〜? 自由になると淋ーしぃのかい?

やっと自由になれたからって、涙が出たんじゃ、困るのさーっ

やっぱり僕ぅーは、人にもまれて、みんなの中で生きるのさー

どうしてこんなに悲しいんだろう←リンク】

 

 自由になりたくて教育大を飛び出し南山に来た。今度は南山から教育大へ。自由で勝ってなことをしていた自分にはいつも拓郎の歌にあるような淋しさの空洞があった。その空洞は別れのとき最大限に広がったが、心の空洞に南山の「てのひら」での仲間たちの思い出で埋まっていき、満たされていくのであった。

 

(この南山での1年足らずの体験は、何ものにも換えられない宝物としてその後の自分の生き方に影響を与え、今も心に生き続けています。ありがとうございました)

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