24.大学祭に向けて

  • 2019.06.04 Tuesday
  • 18:57

 2学期が始まった。大学祭に向けて新作を創る必要があった。地下鉄の本山にメルヘンハウスという子ども向け専門の本屋がある。どんな題材があるか、よく通ったものだ。その中にあった「すてきな三人組」という絵本。ファンタスティックで心あたたまる話。これがてのひらの新作のすてきな三人組題材として選ばれた。この絵本は今でも図書館とか子どもの絵本のコーナーで見かけることがある。見かけるたびにこの当時のことを思い出しドキドキ、ワクワクしてしまう。

 

 1学期は、まじめに講義に出たものの2学期になると出るには出たが、気持ちはもう人形劇に集中しそのとりこになっていた。そして毎日、毎日、制作と稽古に明け暮れる。人形劇は、公演のときだけではなく創っていく段階からメンバー全員の心が一つになっていないとできない。公演で公開されるまで、全員の心がゆっくり、ゆっくりと一つにはぐくまれて行く。

 この作品は、とても丁寧に作られ、多くの人に絶賛を浴びた。例えば、プロのむすび座の団長、丹下氏とか。

 

 自分が何の役だったか覚えがない。けれど「てのひら」の人形劇に携わった人は全員覚えがあるはずだ。

 劇の幕が上がる前、黒子をかぶりケコミの中で息を殺して待つ時間・・・今日はうまくできるだろうか?・・・今日の観客の反応はどうだろうか?ワクワク、ドキドキする至高の時間これがたまらなく好きだった。

 人形を操る者たちだけではない、大道具、小道具、ブタ監全員が開始前に目と目を合わせ、お互いに無言の合図をおくり、カーテンが開くのを待つ。開始前、ナレーター役が観客側に立って挨拶をし、開始前に説明をしはじめると全員一致で気持ちを一つにしていく・・・

 劇が始まるともう、ほとんど無心。人形を操作し演ずるもの、大道具、小道具役、そして観客の心が一つになって物語りに没頭していく。それが人形劇の魅力であった。

 制作前も公演中も、そして、演じきった後もメンバーの日常の私生活でも多くのドラマが生まれていくことになる。

25.女子短大との交流

  • 2019.06.05 Wednesday
  • 19:05

 大学祭が終ると愛児連とのかねあいで、共通の会合がいくつか行われるようになり、てのひらも福祉大学、金城大学、自由女子短大、保短大などといっしょに参加し、いくつかの女子短大と合同合宿が行われた。各校練習を行った後、合宿所に合流して人形劇に対する分科会での議論も含め、親睦用の交流集団ゲーム、名前当てゲームなどがなされた。

 "やおやの店先並んだしーな物見てごらん!よく見てごらん、考えてごらん …ちゃん、…君・・・、ボス、ヌーボ・・・" 順に名前を言ってどんどん名前を付け足して、最後に自分の名前を言って、”あーぁ、やおやの店先並んだ・・・” と身振りと歌でどんどん続けていく。後ろの方に行けば行くほどどんどん名前の数が増えていく。自然に名前が覚わるゲームだ。

 名女短大だったかと思うがそのサークルの主幹の女の子は評判の子で、とてもかわいくて魅力的だった。ヨー君は主幹として隣に座り、デレデレとして会を進めていた。このときから赤シャツは、この2人怪しいなとにらんでいた。自分だけじゃない、ユキコも小声で「あれ、できてるかなぁ?」とつぶやいていたのを覚えている。

 

 合宿所で布団がひかれ、全員雑魚寝。隣にはさきほど、名前ゲームで隣に座った短大の女の子が隣の女子短大生布団の中に入って来た。話すこともないので適当な世間話をしているとその子は女子短大のサークルのやりにくさをいくつか話してくれた。当然なのだが、短大は入学して2年目はもう卒業と就職活動が発生してサークルをしっかりやれる状況ではない。だから、4年制大学の学生がうらやましいと思ってること。兄がいて自分をすごくかわいがってくれてるということ。そんな身の上話を聞かされることになる。

 消灯がなされても、それでもひそひそ話をしにきてくれる。しかたがないので小声でゲームをやろうと提案した。

「ボクが適当な話をするから、それに適当に話を創って続けてみて!話がつきたらバトンタッチ、また適当に話をするから…」

”むかし、むかしあるところにおじいさんがいました。川に洗濯にいくと川上から大きなどんぶりがやってきて…”

”そこには巨大な魚が入っていて、突然じいさんを背中に乗せて…すーいすいと雲の上におよいで行って…”

・・・まったくデタラメの話を交互に作りながら、つなぎ合わせてデタラメの話を作り上げていく・・・20分ほど続けただろうか・・・ やっと夜の眠りについたのだった…

(写真はイメージです。話の登場人物とは関係ありません!)

26.初のデート

  • 2019.06.06 Thursday
  • 21:42

 女子短大との会合は愛児連とのことなので、数回行われた覚えがある。合宿で隣にいた子は、あのとき夜のひそひそ作り童話が気に入ったのか、愛児連の会合の時は必ず話しかけてくる。小柄で髪が長く、少しふっくらとした外形的には好みのタイプであった。会合がある度に、話す機会がだんだん増えてくる。

 ある夜、彼女から家に電話がかかってきた。祖母がいるのでこちらの状況をそのまま話すわけにはいかず、また電話で話すのは苦手でどうしようかドギマギしたがなんとか話のつじつまを合わせて電話を切った。数回の電話があった後、とうとう次の日曜にデートをするはめになる。

 

 正直に言うが今まで女性にもてたことはない。こちらから女性に声をかけたことはあるが相手から声をかけられたり、誘われたりしたことはない。デートといってもどこへ行って、どうしたらいいのかさっぱりわからないし、気のきいた食事どころとかデー八事 興正寺トに適したところをなどを全く知らなかった。

 日曜日、落ち合った場所は八事だった。待ち合わせ場所まで行くのにだんだん、ドキドキしてきた覚えがある。行くところがわからないので、肝試しを行った興正寺に行く。興正寺は真言宗系の名刹でありすごくいい佇まいをしていて、秋の紅葉真っ盛りのときだった。近くには、真福寺とか一心寺とか小さなお寺がたくさん。だが、まさか初めてのデートがお寺参りとは・・・きっと彼女もたまげたことだろう。

 ぐるぐると八事の住宅街を無目的に歩いて廻った。手をつないだり、肩を抱いたり、そんな気の効いたことはできなかった。ときどき、どうしたらいいのか、どこへいったらいいのやら、話す会話も見当たらず無言で、八事の高級住宅街の路地で同じ一角をぐるぐる、ぐるぐる廻ってはときどき立ち止まる。すると彼女が見つめてくる。また、歩き出す…またぐるぐる廻っては立ち止まる…それの繰り返し。そこの住人この2人の姿を見かけたなら、”怪しい男女がうろついていた”と警察に通報されたことだろう。

 

 次の愛児連の会合の後、ヨー君がニヤニヤしながら話しかけてきた。

「赤シャツ、うまくやってるなぁ…付き合ってるのか? オレもね、あの短大のサークルの主幹の子、あの子かわいいから知ってるだろ?あの子と…」

 当時、いろいろといろんな恋物語があった。

27.フェス前のジャズ

  • 2019.06.07 Friday
  • 19:02

 その頃、1学期のときバケと付き合っていたチビ太が南山3人娘のひとり、ハンちゃんと付き合うようになっていた。ハンを見つけると肩を抱くようにしてみんなの前で見せつけるように歩く。気が多い奴だなぁとは思ったが恋愛なのでそれも仕方がない。赤シャツの短大の女の子は、あのお寺参りと住宅街ぐるぐる廻りが嫌になったのか、その後きっぱりと連絡がなくなっていた。

 

 大学祭が終って愛児連の活動が増えてきて、その後2学期の終りの年末に人形劇フェスティバルが開催される計画がメンバーに伝えられた。人形劇フェスはどこがどう企画したのか、とにかく名古屋で人形劇を行っている団体すべて(大学・短大サークル他、人形劇団プロ・アマすべて)に呼びかけられ、確か”名演小劇場”だったか?各団体が順次公演を行って人形劇を見せ合う、最大の行事だ。

 人形劇フェスに向けてのてのひらの演目はすてきな三人組だった。大学祭のために作ったがそれをさらに磨いて作品として出品することになる。何回か、泊まり込みで制作にあたっていた。泊るところは下宿組の誰かの部屋。

 

ジャズ その出来事は泊まり込みの民ちゃんのアパートだったかな?、その部屋で起きたこと。泊まっていたのは、ユキコ、ヌーボー、オオマサ、ヨー君等…他に誰がいたのかはっきりとした覚えはない。

 突然、チビ太が今からみんなでジャズをやろうと言い出した。フォークぐらいはギターでやれたが、ジャズは難しいイメージがあり、はじめ冗談だと思った。ところが、チビ太が机を手でタンタンタン、タンタンタン、タカタカタカタカ、タンタンタン と叩き始めた。ズーンチャチャ、ズーンチャチャと音を立てながら、隣にいたブッチャーに茶碗に箸でリズムを合わせて叩けと合図する。するとブッチャーがリズムに合わせて、チーン、チンチン、チキチキチーン、チーンチンチン、チキチキチーンと叩き始める。つられて、オオマサが座布団をバーンバンバン、ズババババン、バーンバンバン、ズババババンと叩くとユキコが皿を机に擦ってシューッ、チャッチャッ、シューッ、チャッチャと合わせ始める。

 音階の曲はない。ただ、リズムだけ合わせて気の利いたリズムを何でもいいから出して合わせるだけ。自分は近くにあった棒を2つ、カンカン、カカカン、カンカンカン、カンカン、カカカン、カンカンカンと出すとヌーボーが足でズンチャ、ズンズンチャ、ズンチャ、ズンズンチャ、それが延々と続いていく。リズムに乗って壁だろうが床だろうが目の前にあるもの、叩けるものをすべて叩いて順に楽器にしていく。5分ほど続けてもまだ即席ジャズは続き、どんどんみんな乗ってくる。10分ほど続けただろうか…チビ太がリードして顔で終わるぞと合図する…タンタンタンタン、タタタターーーーーン ジャーン! 最後に鍋ぶたを2つ合わせてジャーンと鳴らし全員一斉に演奏をピタリと止めた。メンバーから拍手が起こる。

 驚いた!他のメンバーも参加した参加したみんな驚いた!ジャズってこんなにかんたんに参加できて自分でもやれちゃうんだということに驚いた!チビ太のエンターテーメントの才能にもびっくりしたが、それまでとっつきにくかったジャズとは難しいものではなく、リズムさえ合えば誰でも参加できる音楽なんだと思い知らされた。これ以後、ジャズの音楽を聞くようになっていく。ジャズ演奏もやってみようかとその気にさせられた一コマであった。

28.人形劇フェスティバル

  • 2019.06.08 Saturday
  • 19:36

 年末の12月、人形劇フェスティバルが開催された。多くのサークルがお互いの人形劇を他大学の人に見てもらう。最初は短大生の作品が紹介されていく。こんなことをいうと叱られそうだが、学生生活の期間が2年ということもあって短大に劇の完成度は低い。それに対して、日福、名大、名城大などの演目はてのひらとは一味違った創りで見ごたえがある。中でもプロのむすび座の作品はみんな注目をし、やはりさすがという貫禄があった。てのひらの演目はすてきな三人組、多くの他学生たちから賞賛を浴び、むすび座の丹下さんからも絶賛された。

 

 その中に一風かわった劇団があった。構成人員は学生ではない社会人となった男女の2人だけ。演目は、つくばねの唄。構成要員が2人だけのため、ケコミも小さく人形も小さい。内容は江戸時代のつくばね(筑波地方)を旅する侍が女一人暮らしをしている粗末な庵に一晩の宿を所望するという異色の時代物であった。上段の舞台では行わず観客と同じフロアに台を置き、観客と同じ目線で話が進められていく。ところが人形が小さいがため観客の目は逆に小さな人形に集中した。手首に針金でしかけがあり、手を振るとくねくねと手首がいやらしく動く。内容は子供向けではなく、大人向けの少々エロティックな内容であったが、見るものを引きつけ学生たちの大笑いを誘った。

 

 人形劇にはこんな表現もあるのだとびっくりした。以前、日福大で見たような衝撃を覚えた。

1.人形劇はスタッフ、大道具、小道具、ブタ監など大人数が必要だと思っていたのだが、最少人数でも可能だということ

2.人形の作り方、素材、表現力は想像以上にたくさんあるのだということ

3.2人のパートナーで全国を講演活動で渡り歩いているという

 この作品を見たとき、自分は一つの夢を持った。「いつか、いつの日かこ2人のように持ち運べる人形劇一式を持ち、フーテンの寅さんのように全国津々浦々旅をしながら巡回公演が出来たらいいなぁ...」この夢は65才の今になっても未だに実現していない❗

 

 このフェスティバルの後でひょっこりひょうたん島を作ったひとみ座の人形劇論の本を読んだ。これも驚いた。

 人形劇をやるものの何人かは演劇を志したものがいる。演劇と人形劇と何が違うか? ひとみ座の考え方は、人形劇は”物体劇だ”という。極論すると人形は必ずしも人や動物の形を模する必要はない!例えばえんぴつ一本、筆箱一つ、それに、演じさせたい動きや声を与えればロケットのつもり、列車のつもり、人間のつもり、つもりの想像の世界でえんぴつがロケットにも列車にも人間にも表現することができる。つもりの世界が人形劇の本質だというのだ。

 本当に多くのことを考えさせられたフェスティバルであった。